「地酒=日本酒」という印象、強くないですか?
少なくとも、私はそういうイメージを持っていました。というよりも、日本酒以外の地酒が想像しにくかった、というのが大きかったかもしれません。ですが、「地酒」という言葉を読み返してみると「その土地・地域の酒」つまり、言ってしまえばビールやワインなどでも、その地域で造られている酒は何だって地酒なんです。
「じゃあ弘前には何があるの?」そう思った私は、特産品であるりんごと関連付けながら、「弘前シードル」に出会いました。実は弘前、日本シードル発祥の地なんです。リンゴを活用している弘前シードル、この記事ではその魅力を伝えていきたいと思っているので、ぜひ最後まで読んでいって下さい。
同じ「りんご」なのに何故味が違う?弘前シードルとは

弘前シードル、それは歴史を遡れば100年以上前にもなります。弘前でりんごの生産が本格的に始まって間もない1899年頃、りんご果汁を加えたりんご酒が販売されたのが起源となっています。現在では弘前市・津軽地域に数多くのメーカーが存在し、それぞれが独自のコンセプトのもとでシードルを製造しています。そしてこれらのシードルは、使用するリンゴの品種、酵母の種類、発酵の度合いなどの製法の違いによって、様々な味わいをもたらしています。
同じりんごを使っているにもかかわらず、シードルごとに個性が生まれるのは、こうした製法の違いによるものですが、今回は「弘前シードル」についての取材を通して、製法以外からも生まれる個性について知ることができました。
ハチドリ酒店酒店さんへの取材!『弘前シードル試飲会』
シードルの個性を知るために、沢山のシードルを取り扱っている「ハチドリ酒店」さんへ取材しに伺いました。弘前シードルを知るきっかけとなった場所でもあります。

店内は落ち着いた雰囲気で、シードルだけでなく日本酒、ワインなども沢山あり、量り売りや角打ち、試飲などが可能です。イベントも開催されることが多く、誰でも参加しやすいです。 今回参加させていただいたイベントは、「弘前シードル試飲会」であり、造り手のお話を聴きながらシードルを楽しむことが出来ます。そこで私は、甘いものから辛いものまで様々なシードルを飲みながら、味の違いについて知ることができました。

造り手によって変わる、シードルの個性
シードル試飲会と、取材前にプライベートで伺った時で、計23種類のシードルを試飲させていただきました。


二枚の写真とも、左から右にいくにつれて、甘口~辛口となっています。23種類のシードルを飲み比べてもなお、『シードルはこういう味だ』とは言い切れませんでした。それは、全ての商品に別々の意味を持つ「美味しさ」を感じたからです。甘口~辛口まで、りんごの品種や製法、造り手の考えによって味は驚くほど多彩でした。
できることなら、試飲した全商品を紹介したいところですが、ここでは特に印象に残った4種類のシードルを挙げさせていただき、「味の多彩さ・個性」を紹介していきます。①と②では同じ甘口であるにもかかわらず、少し違いがあるシードルを、③ではお洒落な名前と「酵母無添加」という特徴を持つシードルを、④では商品の背景にあるストーリーが面白いシードルを紹介させていただきます。
①キモリシードル・スイート

私が弘前シードルとして最初に飲んだ商品です。「甘口のりんご酒は、りんごジュースとどう違ってくる?」と気になったのがきっかけで、試飲できるものの中で一番甘口とされていたキモリシードル・スイートを選びました。飲んでみると、とにかく甘いです。初めて、というのもありその瞬間に「これホントに酒!?」と驚いたのを今でも覚えています。後味もアルコール感が少なく、りんごの美味しさが飲んだ後も感じられます。造り手の方達によるお話の中では、甘口のシードルは食前酒としてだけでなく、スイーツやパンなどにも合うといったことも聴くことができたため、色々な組み合わせを考えるだけでも楽しいです。
ちなみにキモリシードルさんにはスイート・ドライの他にも、季節限定の商品があるようです。どう違うのか、ぜひとも確かめてみたいものです。
②弘前城しいどる・無ろ過スイート

甘いシードルを数種類飲んでみようと思い、その中でも印象に残った商品です。瓶を手に取る前から、底が濁っていることが分かるほどに、無ろ過によるりんごの濃さが伝わります。キモリシードルさんのスイートは、さっぱりとした甘さですが、無ろ過スイートでは、りんごスムージーを飲んでいるかのような濃さを感じました。軽く振って飲むのも良いですが、敢えて振らずに飲み、味の変化を楽しむという方法もあるようです。一本で色々な楽しみ方ができるのも、無ろ過スイートの面白いところだと私は思いました。
③zattana cidre・蟋蟀戸在(キリギリストニアリ)

私がシードル飲み比べの中で一番「!?」となった商品です。まず名前に、次に味に驚きました。りんご以外の味がしたと思い、造り手の方へ伺ったところ、蟋蟀戸在には山ブドウを使用しているとのことでした。そして、ザッタナさんではシードルの製造に、酵母を添加せず、空気中の酵母によって発酵を行っているようです。酵母を使用することで、りんごにプラスで風味が追加されるようですが、酵母を使用しないザッタナさんでは、複数のりんごの品種をブレンドしたり、蟋蟀戸在で山ブドウを使用したりして、他のシードルとは違った味の出し方を行っていることが分かりました。また、名前は「七十二候」から取っており、「その時期」に収穫されるりんごと合わせての命名のようです。初めて知った時は、「何てお洒落な名付け方なんだ!?」って思いながら試飲していました。
そうすると、その時期・季節の風景や、「あの頃そんな事もあったな」といったことを思い出しながら、合いそうな料理が頭の中に浮かび上がってくるんです。教養も身につくし、面白い商品です。
④太宰の林檎酒・津輕

私が造り手の方達の話を聴いた中で一番「!?」となった商品です。試飲した時は、りんごの香りが感じられながらもビールのような、日本酒のようなアルコール感を感じました。話を聴いていく中で津輕では、太宰治が実際に飲んだとされるりんご酒を再現しようと、当時の主流品種や製法、環境などを整えて忠実な再現を目指しているとのことでした。当時はりんご酒が、日本酒の代替品として飲まれていたようで、その味を再現することを目指しているそうです。
太宰のリンゴ酒再現プロジェクトについては、インターネットで検索すると出てきますが、実際に伺った話では、さらに背景にあったきっかけ、試行錯誤、こだわりなどを知ることができました。そのため、弘前シードル試飲会のようなイベントは、「実際に味を確かめて自分の好みを見つけられる」だけでなく、「その場でしか聞けない、その商品にある背景や想いを知れる」という良さがあると私は思います。手頃価格で一度に複数の商品を味見できるのも良いところ。

甘くて飲みやすいものもあれば、お洒落な名前と酵母無添加という特徴を持つもの、歴史の再現に挑戦したもの、ここで挙げた4つ以外のシードルにも沢山の個性がありました。同じ「りんご」から造られるシードルでも、その表情は多種多様。
私は、飲み比べや造り手の話などから、「美味しい」という言葉に味だけでは表せない魅力を感じました。そのシードルが生まれたストーリーを知ることで、グラスの一杯がより特別なものに感じられたんです。
明日の晩酌に、弘前シードルという選択肢を
「初めて飲むお酒が、シードルだと嬉しいです。」
造り手の方達の話を聴く中で、この言葉が心に残りました。長い歴史がある弘前シードルですが、その認知度はまだ少ないようです。弘前大学の近所にハチドリ酒店があることからも、「ぜひ学生にも知ってもらいたい、初めて飲むお酒がシードルだったら嬉しいです。」といったお話を聴くことが出来ました。
アルコール感が苦手な人でも飲みやすい甘口から、料理と合わせることで食事が美味しくなる辛口まで何でも揃っているため、自分の好きなシードルを見つけられます。

「シードルって、何にでも合うんです。」
普段からお酒を飲んでいる方達にも、シードルを知ってほしい、というお話もありました。辛口のシードルを飲むと、りんごの酸味や渋みとアルコール感によってすっきりとした味わいを感じられますが、料理があるとさらに美味しさが伝わります。シードルと料理は、互いに立て合う存在で、食事によく合います。スナック菓子からスイーツ、揚げ物、魚料理、何にでも合うため、もしかするとシードル選びに迷った際は、食べたい料理から逆算して、合いそうなシードルを選ぶのも一つの楽しみかもしれません。
日本酒だけではない、もう一つの地酒として親しまれている弘前シードル。同じりんごから造られているのにもかかわらす、その味、ストーリーは造り手の想いや製法によって大きく変わります。今回の取材を通して感じたのは、「シードル」という一つのお酒ではなく、一つ一つに違った個性や物語があるということでした。
「シードルってどんなお酒なんだろう。」
もし気になったら、一度試飲会に足を運んでみるのもおすすめです。造り手の話を聴きながら試飲することで、インターネットで調べるだけでは分からないシードルの魅力に出会えるかもしれません。そしてその中から、「これだ」と思える一本を見つけられたなら、その日その次の晩酌はきっと特別なものになるはずです。
【取材先】ハチドリ酒店
青森県弘前市富田3丁目7-10
(メガや弘前大学のすぐそば!)
【営業時間】10:00~20:00
【オンラインショップ】ヨリトリ・ミドリ
青森シードル『ヨリドリ・ミドリ』
